「発達障害」「自閉症」と聞くと、「誰かに助けて貰わなくてはならない」「障害」というイメージがまず浮かぶと思います。一方、障害を「個性」と考える人たちもいます。
発達障害であることによって人より優れることはあるのでしょうか?
ここでは自閉症スペクトラム障害を持つ人が「他の人より得意」ことの多い特性をいくつかご紹介します。
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【注意】
ここでは裏付けの研究があるものをメインに紹介していますが、ASDを持つ全員に当てはまるわけではありません。
先入観で決めつけず、一人ひとりを見ることが大切です。
もくじ
細かい情報を見逃さない
自閉症スペクトラム障害を持つ人は、細かい変化を見つけることが得意です。局所処理については今までたくさんの研究が行われてきました。(私の専門分野でもあります)
この細かい情報を処理する能力は自閉症スペクトラム障害の重さに関係なく優れていました。つまり、軽度自閉症の人でも、重い自閉症の人でも見られる特徴なのです。
また、自閉症スペクトラム障害の子供を持つ親にも同じ特徴があったことから、遺伝的なものだと考えられています。
イギリスの論文では、「これがASDを持つ人が文章の間違えを見つける校正などの仕事に向いている理由ではないか」と述べています。
ルールにこだわる
メインの症状としてこだわりの強さがあげられる自閉症スペクトラム障害。この能力は様々な部分で生かすことができます。
元々ルールが決まっているプログラミングなどはASDを持っている人にとってはわかりやすいものなのです。
実際にアメリカのIT産業の中心地・シリコンバレーでは自閉症スペクトラム障害を持った子供が多く生まれるという報告があります。これは、自閉症傾向のある親がIT関連の仕事をするためにシリコンバレーに集まるためだと考えられています。このことから、アスペルガー症候群などは「シリコンバレー症候群」と呼ばれることもあるのです。
また、これ以外にも規則を守ることが重要な仕事などは得意なことが多いです。


他人がルールを守っていない時は?



集中力がある
発達障害全般に言えることですが、集中力が強いことがあります。特に自閉症スペクトラム障害では特定のものに異常な集中力があることが大きな特徴になっています。
この集中を使うと、人並み以上の知識や技術を身に着けることもできます。また、短期間で多くの仕事を進めることにも役立つことがあります。
自閉症スペクトラム障害を持つ人の中で、高学歴だったり学者の人が多い理由の1つになっています。

記憶力がある
自閉症スペクトラム障害を持つ人はその集中力や興味への執着から、特定の分野で素晴らしい記憶力を見せることがあります。また、過去の出来事を鮮明に思い出すことも可能です。
一方ASDを持つ人には記憶するのが苦手なことも。
記憶に関するあれこれはこちらの記事を見てください。
天才的な能力:サヴァン症候群
最後にご紹介するのが、サヴァン症候群に属する人です。サヴァン症候群とは、精神疾患や発達障害と言ったハンディキャップを持ちながら、特定の分野で並外れた才能を持つ人です。計算力や記憶力、音楽や絵など様々な分野に渡ります。
サヴァン症候群は、発達障害、特に自閉症スペクトラム障害に多いとされています。いわゆる古典的自閉症(比較的重いASD)の人の10人に1人なんらかのサヴァン能力を持っているとも報告されているほどです。知的障害のある人では10000人に6人から10人ほどの割合であり、自閉症との関連が強いことがわかります。
一方、以下で紹介するような天才的サヴァンの例は少なく、2001年時点では世界で50人ほどしかいないとも言われています。
サヴァン症候群は生まれつき持っていることがほとんどです。数少ない例として、認知症や脳血管障害を患った人がサヴァン能力のような才能を手に入れることもあるとされています。
サヴァン症候群の記憶力
電話帳の名前や住所を全て記憶
アメリカの全都市と道路を暗記
サヴァン症候群の計算能力
言われた日付の曜日をすぐに答えることができるカレンダー計算能力
20桁の整数が素数かどうかを判断できる
3桁の数字の3乗をすぐに計算できる
サヴァン症候群の空間・時間能力
時計を見ずに正確な時間を言える
道具を使わなくても正確な長さがわかる
サヴァン症候群の知覚・運動・芸術能力
過去に見た風景を正確に再現できる
母国語でない言語を正確に再現できる
まとめ
自閉症スペクトラム障害を持つ人が得意なことについて、いくつかご紹介しました。
発達凹凸とも表現される発達障害。苦手なことが多い分、得意なことはとても得意な人もいます。
関わるときは相手が何が得意なのか、どう凸の部分を生かしていけば良いのかを一緒に考えてくれたら嬉しいです。
参考文献
高畑圭輔 サヴァン症候群, アークメディア, 臨床精神医学, 2015, Vol.44 (2), p.249-254
Varley, G. (n.d.). Neurodiversity in Silicon Valley. Retrieved February 08, 2021, from https://www.womenofsiliconvalley.com/blog/neurodiversity-in-silicon-valley
Diagnostic and statistical manual of mental disorders: DSM-5. (2013). Washington, DC: American Psychiatric Publishing.
Francesca Happé, Uta Frith, The Weak Coherence Account: Detail-focused Cognitive Style in Autism Spectrum Disorders, Journal of autism and developmental disorders, 36(1), 5-25,2006.