自閉症スペクトラム障害の障害の一つと言われるコミュニケーションや相手の感情の理解。
「相手の気持ちがわからない」「空気が読めない」と言われることも多く、自閉症スペクトラム障害を持つ人が社会で生きにくい要因の一つになっていました。根本的な改善法も見つかっていません。(改善しなくてはいけなものなのかと言われるとそれも違いますが)
しかし最近の研究では感情の障害の原因や改善方法と言ったのが少しづつわかってきました。
どうして感情の理解に苦手が現れるのか、何か対策する方法はあるのか、わかりやすく説明していきます。
もくじ
自閉症スペクトラム障害を持つ人が感情の障害を持つ原因
それでは原因について見ていきましょう。ここで紹介するのは発表されている一つの説にすぎません。まだまだ自閉症スペクトラム障害には解明されていないことがたくさんあるのです。それをわかった上で読んでください。
ASDの感情の特性とは
そもそも自閉症スペクトラム障害を持つ人のコミュニケーションの特徴は何があるのでしょうか。よく言われるのは感情を共有したり、相手の心や意図、感情を理解するのが苦手ということです。そして、これは生まれつきのものだとされています。
これは、主に2つの実験から言われていることです。
1つ目が心の理論との関連性。相手の気持ちや皮肉・嘘などを理解する能力です。自閉症スペクトラム障害はかつて心の理論の障害と言われ、「サリーとアン」実験から立てられた説です。
簡単にいうと自閉症スペクトラム障害を持つ人は「相手にも心がある」ということがわかるのが、他の子供達より遅いというものです。
ちなみに今では心の理論を習得する道筋が異なるのでは?という論も出ています。
2つ目が顔写真の分類課題です。自閉症スペクトラム障害を持つ子供たちは、顔写真の表情をあまり気にしなかったのです。
自閉症スペクトラム障害と動機付け
この2つの実験は、「特定のことに注目するように」いうと自閉症スペクトラム障害を持たない子供と変わらない結果になったことも報告されています。
つまり「能力がない」のではなく、(他の人に注目することが難しいため)「自発的に行うのが難しい」のではないかと考えられるようになりました。
自閉症スペクトラム障害の感情障害の本質は、外の刺激に対しての注意が少ないためではないか?という説です。
ミラーニューロシステムと自閉症スペクトラム障害の関連性
今、自閉症スペクトラム障害を持つひとの感情の特性はミラーニューロンシステムというものに関連していること、そして刺激することで改善される可能性が報告されました。少し難しい語句が多いですが、なるべくわかりやすく説明していきます。
ミラーニューロンシステムについて
まず、ミラーニューロンシステムについてです。
私たちの頭の中にはMNS(ミラーニューロンシステム)というものがあります。これは、特定の運動や、他の人がその運動をした時に動くシステムです。要するに他の人の活動を自分の活動のように処理するものです。
例えば、自分が何かを食べる時だけでなく、相手がものを食べている時。自分が感情を感じる時だけでなく、相手の浮かべる感情に対しても、ミラーニューロンは似たような活動していると報告されました。
また、ミラーニューロンの発達には経験の量が関係しています。
ミラーニューロンシステムが自閉症スペクトラム障害に関連していると言われる理由は以下の3つがあります。
感情理解
他の人の感情を自分の感情として理解できるか、他の人の不快感が自分のものとして感じられるか、という面でミラーニューロンシステムが関わっている可能性がわかりました。
特に感情の処理に扁桃体という場所が強く関わっている可能性があるのです。
他者の感情に関わりのあるミラーニューロンがうまく機能しないことで、自閉症スペクトラム障害の感情障害は引き起こされている可能性が報告されました。
1999年に自閉症スペクトラム障害を持つ6人を対象にした実験が行われました。その結果、先ほど感情処理に関連するとご紹介した扁桃体をはじめとした7つの脳の部分の活動が低いことがわかりました。
模範行動
また、自閉症スペクトラム障害の人は模範行動(何かの真似をする)ことが苦手だと言われています。これは、他の人の行動を見たり聞いたりして理解し、自分の行動として再現することです。相手の意図を理解する能力や、言語能力が関連していると言われています。
そしてこの模範行動はミラーニューロンシステムの神経の活動に関連しているのです。
動機付け
自閉症スペクトラム障害は外で起こっていること、つまり社会の刺激に対する注意が少ないことが言われています。上でも障害しましたが、注目するように言われると適切に処理できるのです。
そして、この動機付けには扁桃体が関わっています。
ここだけ読もう!自閉症スペクトラム障害の感情の障害の理由(仮説)
順番に整理しましょう。
自閉症スペクトラム障害を持つ人は、自分で他の人に注目することが苦手です。これは、扁桃体に関連があります。
そして、動機付けができないことで、相手の感情が理解できません。
これはミラーニューロシステムがうまく動かないことになります。
そして、ミラーニューロシステムが経験がないことで発達しません。結果として感情の障害が現れるのです。
ここから何がわかるのか
自閉症スペクトラム障害を持つ子供たちへの、新しい支援方法につながるかもしれません。
もし、感情の障害が動機付けすることができないことによる経験不足の場合、その経験を積むことでよくなる可能性があるのです。
これにはフィジカルエクササイズの他、感情の理解のトレーニング、また直接脳に刺激を送ったり薬を使える可能性も言われています。
まとめ
自閉症スペクトラム障害を持つ人が感情の障害が起きやすい理由をご紹介しました。
まだ、研究段階ではありますが感情の共有が苦手なことで苦労することの多い、自閉症スペクトラム障害を持つ人たち。少しでも生きやすくなるように、今後に期待したいですね。
参考文献
北 洋輔 , 細川徹, 自閉症スペクトラム障害(ASD)における感情, APANESE PSYCHOLOGICAL REVIEW 53(1), 140-15-, 2010.
Yuan, Ti-Fei; Hoff, Robert, Mirror neuron system based therapy for emotional disorders, Medical hypotheses .71(5), p.722-726, 2008.