まだまだ研究段階の自閉症スペクトラム障害。
その原因は何なのか。当事者や当事者の家族なら一度は気になるのではないのでしょうか?
しかし、なかなか出てこない情報でもありますよね。
この記事では、数年前に発表された論文をもとに、遺伝と自閉症スペクトラム障害の関連についてわかりやすく解説していきます。
もくじ
自閉症スペクトラム障害には遺伝子が関わっている
現段階での研究では、自閉症スペクトラム障害には遺伝的影響が関わっていると言われています。
精神疾患の中でも特に遺伝が大きく関わっており、軽い人から重い人まで様々な遺伝子の組み合わせによって起きていると報告されているのです。
ASDの遺伝
双子の研究は、遺伝を考える上でかかせません。
自閉症スペクトラム障害の双生児(双子)の研究によると、一卵性双生児は6〜9割一致しました。一方、二卵性の双子には数パーセントしか一致する例は見られませんでした。
この結果から、遺伝率は90%とも言われています。
しかし、一卵性双生児でも一致率は100%ではなかったことから、遺伝以外にも様々な要因が組み合わさっていると考えられています。
親が自閉症スペクトラム障害だから子供も・・・とは限らないのです。
自閉症を発症する遺伝子異常
自閉症の症状が出る疾患として、angelman症候群、脆弱X症候群、結節性硬化症、レット症候群と呼ばれるものがあります。
そして、これらの症候群では特定の遺伝子が関わっていることがすでに認められています。つまり、原因がはっきりしているということです。
自閉症スペクトラム障害の中でこれらの疾患を持つ人の数はかなり少ないですが、遺伝子によるものの場合もあるのです。
遺伝子の変異によるもの
そして、今研究されているのが遺伝子の変異についてです。自閉症スペクトラム障害は、昔からX染色体の遺伝子の異常と関わりがあるのではないか、と言われていました。
そして、スウェーデンで研究を行った結果、NLGN3とNLGN4という場所で遺伝子の変異がおこっていることがわかりました。
NLGNはNuroligin はシナプスに関連した場所です。そのため、シナプスの異常が自閉症の原因と関連していのではないかという仮説が立てられました。
少し難しいのでかなり噛み砕いて説明します。詳しく知りたい方は参考文献をご覧ください。
マウスの実験
NLGN3を変異させたマウスを用意し、実験を行いました。
その結果、変異されたマウスは初対面のマウスに接触する時間が短いことがわかりました。
つまり、自閉症スペクトラム障害を持つ人で見られる社会相互作用の障害がおきたのです。
ゲノム解析
ゲノムを全て解析した結果、Cadherin9と10の間、SEMA5AとTAS2RIの間に自閉症スペクトラム障害との強い関連が見られました。
Cadherinは細胞の接着に関わる分子です。これにより、自閉症スペクトラム障害の発症での細胞接着、シナプス接着分子の異常に関わっているのではないかということが考えられます。
また、SEMA5Aは自閉症スペクトラム障害を持っている人では低下していることが知られている神経軸索の誘導に関わる遺伝子です。
まとめ
当事者や家族が気になることの多い、遺伝についての解説でした。
自閉症スペクトラム障害の原因はまだ解明されていないことが多いです。具体的に何が関わっているのかはわかっていません。しかし、原因の解明の研究は少しづつですが進んでいます。
自閉症スペクトラム障害の原因がわかることは、ハイリスクの人への早期支援や正確な診断につながります。少しでも自閉症を持っている人がいきやすくなるためにも、今後の研究に期待したいです。
参考文献
田渕 克彦, シナプスと自閉症, 生体の科学 65(1), 3-6, 2014.
音羽 健司 , 佐々木 司, 自閉症スペクトラム障害の遺伝子研究, 分子精神医学 / 「分子精神医学」編集委員会 編 11(4), 282-288, 2011.