発達障害の1つの自閉症スペクトラム障害(ASD)。
あまり知られていませんが、運動機能にも障害が現れることが多いのです。
ハサミを使えなかったり、スポーツが苦手だったり・・・
それってもしかして自閉症スペクトラム障害の特徴なのかも?
もくじ
自閉症スペクトラム障害を持つ子供は運動が苦手なこともある
発達障害を持つ子供達には、運動の発達の障害や不器用さがみられることがあります。
自閉症スペクトラム障害を持つ子供の8割に運動の障害がみられたという調査結果があります。
ICD-10には、自閉症スペクトラム障害のメインの症状ではないのですが、不器用さがあると明記されています。
運動機能の障害は自閉症スペクトラム障害と関連していることがあるのです。
ちなみに発達障害の一つに発達性協調運動障害(DCD)というものがあります。
これは、協調運動が苦手なことが特徴の発達障害です。
自閉症スペクトラム障害と併発している可能性もあります。発達性協調運動障害についてはこちら。
ASD を持つ子供が苦手なことの例とその原因
それでは、自閉症スペクトラム障害を持つ人は、どんな運動が苦手なのでしょうか。
ここでは、実際に行われた実験に基づいて6つの視点でご紹介します。
原因に関しては研究段階のものが多いですが、参考までに載せておきます。
重力に逆らうこと
これは、抗重力姿勢と呼ばれます。猫背やほおずえをつくことが多い、自閉症スペクトラム障害を持つ子供達。姿勢を保つことが難しいのです。
特にうつ伏せになることが苦手で、これは生まれつきのものと言われています。
バランスをとること
バランスをとることも、自閉症スペクトラム障害を持つ子供達は苦手です。ケンケンや片足立ちが例に挙げられます。
これは、姿勢の安定性が低いこと、重心動揺(どのくらいふらつくか)の面積が広いことが関連しています。
ちなみにバランスの検査は、自閉症スペクトラム障害のスクリーニングとして3歳児検診でも使われています。
字を書くこと
文字を読みやすさ、形や大きさの揃い方、文字間、一列に並んでいるか、速度などから調べた結果、自閉症スペクトラム障害を持つ子供は、他の子供に比べて苦手だということがわかりました。
これは、視覚の運動機能が発達していないためだと考えられています。
また、線をなぞることも苦手なことから、道具の扱いが得意でない可能性もあるとされています。
体を動かすこと
お手本と同じように体を動かすことにも苦手意識がみられます。
自閉症スペクトラム障害を持つ子供は、他の発達障害を持つ子供と比べてもこの点数がかなり低くなっていました。
これは、こだわりが強く、行動パターンがそもそも少ないことが関連していると言われています。また、ミラーニューロンというところの障害で、思い通りに体が動いていない可能性も言われています。
手を使うこと
ハサミを持ったり、ボタンをかけること、茶碗を持ちながら箸を使うこといった身体処理動作に障害がみられました。
これは、簡単にいうと左右の脳をつなぐものが発達していないため、情報をまとめることに障害が発生しているからだと言われています。
視覚
自閉症スペクトラム障害を持つ子供には、空間認知が苦手な子がいます。
奥行きや位置がわからないのです。そのため、向かってくるボールのキャッチが苦手だったりします。
ちなみに自閉症スペクトラム障害持ちの筆者は、向かってくる車と自分との距離がよくわからず、道をいつ渡って良いのかわからないことがあります。
まとめ
自閉症スペクトラム障害の運動についての特徴を紹介しました。
運動にも発達の遅れが出ることがあることはあまり知られていないように思えます。
不器用なのは本人の努力や周りの教育のせいではなく、障害の特性のことがあるのです。
多くの人に自閉症スペクトラム障害の運動機能についての認知が広まり、一人ひとりにあった対応ができると良いですよね。
参考文献
岩永竜一郎, 発達障害児への支援—感覚・運動アプローチを中心に—, 小児保健研究 72(4), 473-479, 2013.
岩永 竜一郎, 自閉スペクトラム症の上肢の協調運動の問題と作業支援, 作業療法ジャーナル 51(8), 824-828, 2017.
加藤 寿宏, 自閉症スペクトラム障害の運動・行為の障害, 作業療法ジャーナル 47(9), 1002-1006, 2013.