最近耳にすることの増えた「自閉症スペクトラム障害」。
あれ?でもアスペルガー症候群との違いって何?どちらも自閉症…?と思う方は少なくないのではないでしょうか。
でも、実はこの障害の呼び方は時代によって変わってきているのです。そして当事者でもわかっていないなんてことも。
今日は、そんな分かりにくい「自閉症スペクトラム障害」の名前と、アスペルガー症候群との違いについてご紹介していきます。
もくじ
自閉症スペクトラム障害って?
そもそも自閉症スペクトラム障害とはなんなのでしょうか。
自閉症スペクトラム障害は強いこだわり、コミュニケーションの障害を持つ発達障害です。
自閉症スペクトラム障害は英語で「Autism Spectrum Disorder」と訳されるため、頭文字を取ってASDと呼ばれることがあります。
詳しくはこちらのページで説明していますので、参考にしてください。
スペクトラムとは?
スペクトラムとは英語で連続体を表す言葉です。
- 自閉症スペクトラム障害にいおいてどこからが「障害」かの線引きが難しいこと
- 症状の強さがスペクトラムのように連続して起こっていること
以上の理由から、自閉症スペクトラム障害という名前がつきました。
つまり、自閉症の重さによる細かい分類を取っ払って、全部まとめちゃおうとなったのが自閉症スペクトラム障害なのです。
これにより
健常者ーグレーゾーンー軽度ー中度ー重度
までが一つのスペクトラムとして考えられるようになりました。
これは、アメリカ精神医学会が2013年にDSM-5で発表したものです。
ちなみに自閉症スペクトラム障害の「障害」の基準についてはこちらの記事で解説しています。

ASDとアスペルガーや広汎性発達障害との違いは?
それでは本題です。
結論から言うと、広汎性発達障害やアスペルガー症候群は、自閉症スペクトラム障害という名前が使われる前に使われていた言葉になります。
(現在でもWHOの発行しているICD-10ではアスペルガー症候群、広汎性発達障害という名前が使われています。しかし、このICD-10が発行されたのは1993年ごろのお話です。)
広汎性発達障害とは
広汎性発達障害は「自閉症スペクトラム障害」という名前ができる前に
- アメリカ精神医学会の作っている基準:DSM
- WHO(世界保健機構)の作っている基準:ICD
で使われていた言葉になります。
ちなみにICD-10の発表は1993年、DSM-5の一個前に当たるDSM-4TRは2003年ごろ発表されたものなので、20年近く古い名前ということになります。
広汎性発達障害にはさらに細かい分類がありました。(ICD-10より)
- 小児自閉症
- レット症候群
- 小児崩壊性障害
- アスペルガー症候群
- 非定型自閉症
- 知的障害及び常同行動に関連した過動性障害(ICD-10のみ)
- 他の広汎性発達障害
そのうち原因がわかっていないのが小児自閉症、小児崩壊性障害、アスペルガー症候群。これらを「自閉症スペクトラム障害」と呼ぶことにしたのです。
*レット症候群は原因がわかっているため、レット症候群という名前が残っています。
*非定型自閉症も「特定不能のもの」という分類で残っています。
参考までに、元々の分類もみていきましょう。
小児自閉症
3歳までに対人関係、コミュニケーション、こだわりなどの強迫的行動の3つの領域で障害が現れることが診断基準。
世間一般の人が一番最初に想像する自閉症はこれなことが多いです。
知的障害を伴うことや、言葉の発達が遅れることもあります。
レット症候群
1万人に1人ほど、女の子のみに現れる障害です。2歳ごろから今まで発達していたことが急にできなくなり、衰えてしまいます。
現在では原因となる遺伝子変異は見つかったものの、まだ治療法はありません。
小児崩壊性障害
2年以上正常に発達したあと、対人関係・コミュニケーション・こだわり行動などが退行(衰えていくこと)する障害です。男の子に多いと言われています。
アスペルガー症候群
小児自閉症のような症状が出ることは変わらないのですが、言語(言葉の発達)や認知(知的レベル)に障害がみられないことが特徴です。
大人の発達障害とかで話題になるのはこのアスペルガー症候群が多いです。認知や言葉に障害が出ないので、幼少期に発見されにくいです。特に女の子の幼い頃の診断は本当に例が少ないようです。

非定型自閉症(特定不能の広汎性発達障害:PDD-NOS)
対人関係、コミュニケーション、こだわりに障害が現れるが、3つのうち基準を満たさない場所がある状態。3歳以降に症状が出た場合も含みます。
具体的には小児自閉症より軽い症状や、知的障害などにより自閉症か判断が難しいときに使われていました。
今でも「特定不能のもの」として名前が残っています。
その他自閉症スペクトラム障害を表す言葉
ちなみに、他にも自閉症スペクトラム障害を表す言葉はあります。通称や便宜上使われることもが多いのですが、名前が増えてしまうことでかえって混乱を招くなんてことも。
こちらもご紹介していきますね。
高機能自閉症
知的障害のない自閉症のこと
高機能広汎性発達障害
知的障害のない自閉症のこと
高機能自閉症やアスペルガー症候群のような症状をさす(というか同じとされることもある)

結局どれを使うべきなのか。
結論から言うと、自閉症スペクトラム障害(ASD)が今最新で、一番使われている言葉になります。
「知能に遅れのない自閉症スペクトラム障害なんです」とか言うのはめんどくさいですよね。
そのため、便宜上として「アスペルガーです」や「高機能自閉症です」と使われることはあります。
医療や研究の場面では自閉症スペクトラム障害の方が耳にすることは多くなっています。正式には自閉症スペクトラム障害が使われることが多いでしょう。
とはいえ、行政の方が追いついていなかったり、広汎性発達障害と言う言葉もまだまだ場所によって公式に使われているようです。
基本的に同じ障害だと思って大丈夫です。


まとめ
自閉症に関する様々な名称を解説してみました。
自閉症スペクトラム障害の名前が変わり続けているのもあり、様々な名称が残ってしまっています。そのため、いらない混乱を招くこともあるのではかなあと思っています。名前の浸透も自閉症スペクトラム障害を広める上での第一歩なのでは?と感じています。
当事者の方でも、関係者の方でも、同じように疑問に思っている方の参考になれば嬉しいです。
そしてまだ他の名前を見たよ!って人がいたらこっそり教えてください・・・。
参考文献
Diagnostic and statistical manual of mental disorders: DSM-5. (2013). Washington, DC: American Psychiatric Publishing.
中根允文ほか, ICD-10精神科診断ガイドブック, 中山書店
標準精神医学