「大人の発達障害」という言葉が浸透してきて、大人で自閉症スペクトラム障害を持つ人がいること、大人特有の困難があることがわかってきました。
実は大学生も同じで、発達障害(自閉症スペクトラム障害など)を持つ学生は年々増えています。そして、大人ともこどもとも違う大学生特有の困りごとがあるのです。
自閉症スペクトラム障害を持つ大学生が何に困っているのか。周りの人は何ができるのかご紹介します。
もくじ
自閉症スペクトラム障害を持つ大学生は少なくはない!
自閉症スペクトラム障害を持つ大学生は、実は少なくはありません。
総務省が令和2年(今年)に行った報告では、障害のある学生は1%(100人に1人)、発達障害を持つ人は0.17%(1000人に17人)となっています。
この人数は年々増加しています。
その理由として、2004年の発達障害の支援に関する法律、2016年に障害のある学生への合理的配慮(障害のことを考えた対応)をするような法律が施行されたことがあります。
診断をもらっていないケースも
実は、この数は性格でない可能性があります。
それは、この人数は「診断書をもらっている人の数」なのです。
本人が自閉症スペクトラム障害を持っていると気づいていないケースや、診断書を提出していないケースもあると言われています。
いわゆるグレーゾーンという、診断がつくほどではないが自閉症スペクトラム障害の傾向がある学生もいます。
特に大学は高校と比べて自由度が高く、新しい環境に戸惑う自閉症スペクトラム障害を持つ学生は多いです。大学生になって初めて気付く自閉症にケースや、ASD傾向が現れる人もいます。
実際にアメリカでは、自閉症スペクトラム障害を持つ学生の3人に1人は自覚がなかったり、支援を求めていないという報告がされています。

合理的配慮について
今の日本では、「障害のある学生を、障害があることによって教育や研究、大学の活動への参加を拒否することはしてはいけない」と決められています。
例えば、障害を理由に時間や場所を制限されたり、特別な条件を付けられてはいけないのです。
そして、そのために必要なのが合理的配慮です。
合理的配慮は、障害のある学生を優遇するものではありません。障害を持った学生に平等な機会を与えるために行う変更や調整です。

[st-kaiwa1]障害のマイナスをゼロにするだけであって、決してプラスにするものではないんです。[
自閉症スペクトラム障害を持つ大学生にはどんな困難があるの?
それでは、自閉症スペクトラム障害を持つ人は、大学生活でどのような困難を感じているのでしょうか。ここでは、代表的なものをご紹介します。
繰り返しになりますが、自閉症スペクトラム障害の症状や困っていることは様々です。先入観で決めつけづ、一人ひとりと話をすることが大切です。
履修
- 授業の組み方がわからない
- 休みなしに授業をつめてしまう
- こだわりや思い込みから必修を取り忘れてしまう
授業
- 生活リズムを整えるのが大変で授業に遅れてしまう
- グループワークが苦手、手順がわからない
- 自分の意見が言えない
- 耳で聞き取るのが苦手で講義についていけない
- 周りがきになって集中ができない
- 高校と異なる勉強方式に戸惑う
- 慣れない環境にストレスを感じてしまう(毎回教室が変わるなど変化が大きい)
- ペアワークが苦手
課題
- レポートの書き方がわからない
- テーマが決められない
- 時間配分ができない
- 長期的な計画が苦手
学校生活
- マイペースで、サークルやアルバイトに溶け込めない
- 友人関係から得られる情報を逃してしまう
試験
- 聴覚が過敏で、教室でのテスト受験が困難
自閉症スペクトラム障害を持つ学生への対応
それでは、実際にどのような対応ができるのでしょうか。ここでは政府機関で例として紹介されていたものを挙げていきます。

履修
- 授業を支援者と一緒に組む
- シラバスの詳細を教えてもらい、授業の形式や評価方法を元に授業を決める
授業
- グループやプレゼンテーションを個別化する
- 実験や演習の手順・ルールを明確にする
- 障害のことを担当の先生と共有する
- 感覚過敏に対して、耳栓などの使用を認める
- ICレコーダー、ノートテイカーなどの使用などを認める
- 不安が強くなったときに退出できるよう、出入り口に近い席にする
- 評価方法を調整する
- グループワークの時に、手順を明確にする
- グループワークで必要時に板書する
- グループワークやディスカッション後、個別に意見を聞く
- ペアワークを同じ人とにする
- 質疑応答の時間を個別に作る
課題
- 学習方法を細かく指導する(レポートの書き方など)
- 具体的なゴールを設定する
- スモールステップで指導する
- 優先順位をつけるのを手伝う
- 締め切りを文字にする
学生生活
- カウンセリングを行う
- 静かに過ごせる場所を提供する
試験
- 解答時間を延長する
- 別室での受験を認める
各大学ごとに対応についてのサイトがある場合は、そちらを参照してください。


まとめ
自閉症スペクトラム障害を持つ大学生の困っていること、そしてその支援方法のイメージはついたでしょうか。
発達障害を持つ学生は、当たり前に感じていることにすごく困難を抱えていることがあります。
もちろん、これは例で全ての自閉症スペクトラム障害を持つ大学生に当てはまるわけではありません。しかし、理解や知識が広まること、小さな配慮は、当事者の学生にとって生きやすい環境になります。
参考文献
桑原斉, 中津真美, 自閉症スペクトラム障害の大学生への支援, リハビリテーション連携科学 15(2), 96-106, 2014.
福島南, 五十嵐良雄,神経精神医学 : 大学生の発達障害の現状と今後, 医学のあゆみ 262(13), 1186-1187, 2017.
百 合 岡本, 典 恵 三宅, 芙 美 香川 and 正 治 吉原, 大学生における自閉症スペクトラム, 心身医学 59(5), 423-428, 2019.
総務省関東管区行政評価局, 障害のある学生等に対する 大学の支援に関する調査 -発達障害を中心として-, 2020