世間でも一般的になってきたリストカットなどの言葉。
しかし、なかなか理解するのが難しいトピックでもあります。そのため、間違った知識や偏見が広まっているなんてことも。
正しい知識を持っている人が増えることは、自傷をしてしまう人たちの大きな支えにつながります。
今回は自傷と自殺は何が違うのか、どのように関連しているのかを考えていきましょう。
【注意】この記事は自傷や自殺と言ったテーマを扱います。(経験談も含みます)今、苦しんでいる方などには適さないかもしれません。それを踏まえた上でご覧ください。また、自傷・自殺を推奨するものではありません。
もくじ
自傷=死にたいではない
そもそも自傷というのは簡単にいうと「死んでしまう可能性が低い手段を使って自分を傷つける行為」を指します。
つまり、自傷をする人の多くは死なないとわかっていながら自分を傷つけるということです。
実は、2013年に公開されたDSM-5(アメリカの精神医学会が出している、精神疾患の定義)に自傷行為を追加する案が登場しました。
ここでは「自傷とは、自殺の意図なしに、非致死性の予測を持って体に直接的な損傷を与える行為」、簡単にいうと「死ぬつもりがなく、死なないことを確信しながら、体を直接傷つけること」と定義されました。
ここにアルコール依存症や、薬物の大量服用(OD)、発達障害の常同行動などの症状は含まないことから、この記事でもリストカットなどの自傷行為についてまとめていきます。
自傷の理由は?
主な理由としては、不安や緊張を和らげるため、解離状態から元通りになるため、相手に何か伝えるためなどがあります。
自傷の理由や痛くない理由に関してはこちらの記事で詳しく紹介しています。
自殺と自傷の違いは?
自殺と自傷というのは、その目的や理由、手段などで大きな違いがあります。
自傷は生きるために行うことが多く、手段もリストカットなど致死性が低いものになります。実際にリストカットなど、体を切る行為で自殺した人は大人で1%、子供だと0.1%しかありません。
一方の自殺は死ぬことを目的としており、飛び降りなど死ぬ可能性が高い手段を使います。
また、失敗(=死ななかった)時に気分が良くなるのが自傷、絶望するのが自殺とも言われています。
自殺 | 自傷 | |
目的 | 意識活動を終わらせる→死ぬ | 辛さから逃れるため
解離状態から戻るため |
手段 | 首絞め、飛び降りなど | リストカットなど |
苦痛 | 精神的苦痛 | 怒りや不安、緊張 |
自分のコントロール力 | 自分をコントロールできない | 自分をコントロールしようとする |
失敗すると | 絶望 | 気分が軽減 |
ちなみにですが、OD(オーバードーズ:大量服薬)に関しては、自傷のつもりでも死につながることもあるため、専門家の中でも扱いが分かれています。

自傷には対処が必要
それでは、死なないのなら自傷は放って置いて良いのでしょうか。
実はそうではありません。リストカットは放っておくと深刻な問題を呼ぶことがあるのです。
自傷は自殺に繋がりやすい
自傷する人と自殺は全く関連性がないわけではありません。調査によると、自傷行為の7割が自殺の企図(自殺の計画)につながっているという結果が出ています。長期的に見ると、自傷している人が自殺で亡くなるリスクは何百倍も高いのです。
つまり、「自傷で死なない」からといって「自傷している人は死なない」わけではないのです。
一番問題視されているのが自傷行為がエスカレートすることです。自傷行為は、不安や苦しみを和らげるために行われています。しかし、これは一時凌ぎにしかならないのです。
根本的に解決されていないと、自傷は続きます。そして、繰り返していると徐々に効果は薄れてしまい、自傷がエスカレートをしていきます。
結果、深く切ったり、顔や首、お腹など(フェイスカット・ボディカット)危険な部位を切るようになります。過量服薬(OD)などの自殺企図につながっていくこともあります。実際に過剰服用(OD)した人の多くはリストカット歴があると報告されています。


感情が表せなくなる
自傷行為をする人の問題は自傷することではありません。「周りに相談せず、悩みを相談しないこと」です。
自傷行為で自分の感情を行動にうつすことは、自分の気持ちを言葉にする機会を奪ってしまいます。
リストカットを長くしている人の中で、泣けなかったり何も感じないという人がいるのはこのためだと言われています。
アイデンティティの一部になってしまう
世の中には自傷、例えばリストカットを自分の一部にしてしまうケースがあります。これが「リストカッター」と呼ばれる人たちです。
自傷をSNSで晒したり、自傷をしていることをステータスとしてしまうのです。この場合、お互いの影響から自傷行為がエスカレートしてしまう可能性があります。
アイデンティティの一部にしてしまうのは、リストカットだけでなく精神疾患全般に言えることかもしれません。リストカット自体は異常な心理ではありません。しかし、あくまで「自分がしてしまう行為」であることを忘れないことも大切です。
自傷を見たらどうしたらいい?
友達や家族が自傷をしているのを見たらどうしたら良いのか。
対応についてはこちらの記事でまとめています。
子どものリストカットに気がついた時、自傷へ家族は何ができるのか
まとめ
自傷と自殺の関連性について少しわかったでしょうか。自傷している人が「生きるため」と言っているのを聞くと疑問に感じるかもしれません。
しかし、自傷と自殺は異なるのです。そして、自傷で死なないからと言って、その人が自殺しないというわけでもありません。
自自殺にたどり着く前に支援を受けられる人が増えるためにも、傷について正しい知識や支援方法が広まることは大切です。
参考文献
松本俊彦, 非自殺的な自傷行為, 臨床精神医学 45(3), 319-326, 2016
松本俊彦, 【子どもの自殺をめぐって】 子どもの自殺と自傷行為, 児童青年精医と近接領域 56(2), 159-167, 2015.
松本 俊彦, 井出 文子, 銘苅 美世, 研究と報告 過量服薬は自殺と自傷のいずれなのか 自殺意図の有無による過量服薬患者の比較, 精神医学 55(11), 1073-1083, 2013.
松本 俊彦,青年期の自殺とその予防 自傷行為に注目して, ストレス科学 24(4), 229-238, 2010.