自閉症スペクトラム障害と聞くと「天才」「記憶力が良い」と言ったイメージをもたれる方は少なくないかもしれません。
それと同時に「自閉症スペクトラム障害の当事者だけどそんなことない・・・・」と思われる方もいるでしょう。
と、いうわけで自閉症スペクトラム障害の記憶に関するあれこれをご紹介します。
もくじ
自閉症スペクトラム障害は記憶の道筋が異なる
まず、自閉症スペクトラム障害をもっている人は持っていない人では異なる方法で記憶していることがわかってきました。
自閉症スペクトラム障害を持つ人の記憶特性についてご紹介します。
最後に参考文献を載せておくので、気になるものはぜひ元の研究を読んでみてください。
次処理水準効果の低さ
難しい言葉ですが、簡単にいうと「繰り返し何かを覚えようとするとき、語呂合わせとかイメージを作った方が覚えやすい」という効果のことです。
学生時代、語呂合わせで年号や元素記号を覚えた方は多くいるでしょう。
実はこの「情報処理水準効果」が自閉症スペクトラム障害を持っている人ではないと報告されています。
つまり、イメージや語呂合わせをしても、記憶力の向上が認められなかったのです。
また、言葉に意味があってもなくても、記憶にはあまり関係がないこともわかりました。
定型発達の子たちがしている語呂合わせなど何かを結びつける学習方法はあまり意味がないかもしれません。
また、意味と繋がりのないものを覚えることは得意な可能性があります。(数字や外国語など)

感情が記憶に関係していない
定型発達の人たちは、感情によって記憶がもたらす影響が異なると言われています。
例えば、楽しいこと(ポジティブ)・辛いこと(ネガティブ)は、普通のこと
(ニュートラル)と比べて記憶に残りやすいのです。
一方、自閉症スペクトラム障害を持つ人は、この効果がありません。楽しいことも辛いことも普通のことも、全て同じくらい覚えているのです。
忘れることが難しい
一般的に定型発達の人は、あまり重要でないと考える情報を自ら捨てることができます。
この能力は自閉症スペクトラム障害を持つ人は低いという研究結果があります。
つまり、必要でない情報も忘れることができず、ずっと覚えているのです。

記憶力の驚異的な人もいる
では、自閉症=記憶力がいいと言ったイメージはどこからきたのでしょうか。
実は、実際に自閉症スペクトラム障害を持つ人の中には、驚異的な記憶力を持つ人たちもいます。
全員に当てはまるわけではありませんが、例としてご紹介します。
知的障害を持つ自閉症スペクトラム障害の子供達
自閉症を初めて見つけたカナーは、「自閉症の特徴を優れた記憶力がある」としました。
これは、後に知的障害も持っている自閉症の子供だということがわかってきました。
その後の知能指数の調査などから、知的障害を持っている子供の中には、記憶力に関する能力が高い子供たちもいることがわかってきました。
サヴァン症候群
自閉症スペクトラム障害、中でも知的障害を持つとされる人たちの中には、サヴァン症候群と呼ばれる人がいます。
これは、並外れた記憶力や計算力、芸術力を持つ人たちのことです。読んだ本を全て暗記できたり、カレンダーの日付、曜日を全て計算できたりします。
こだわり
自閉症スペクトラム障害を持つ子供には、こだわり:過集中の対象があることが少なくありません。
これは知的障害がある、ないは関係なく、多くの自閉症スペクトラム障害を持つ人で見られることです。
自分の興味のあることに対する膨大な知識が、驚異的な記憶力として語られてきた、ということもあります。


まとめ
自閉症スペクトラム障害の記憶に関するお話でした。
この障害の「良いところ」として記憶力が取り上げられるのは良いことでもありますが、根拠がないとかえって当事者を追い詰めてしまうこともあります。
今回のまとめで、自閉症スペクトラム障害を持つ人は定型発達の人と異なる記憶の特性があることがわかりました。
一人ひとりにあった学習方法、記憶方法を見つけることが大切です。
参考文献
堀田 千絵 ; 十一 元三, 児童青年精神医学とその近接領域, Vol.56(2), pp.209-219,2015.
十一 元三, 自閉スペクトラム症と言語性記憶, 高次脳機能研究36 巻 2 号 p. 201-206,2016.
山本, 健太 / 増本, 康平, 自閉症スペクトラム障害者のエピソード記憶, 神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究紀要,9(2):45- 50, 2016
堀田 千絵, 十一 元三, 自閉症スペクトラム障害者の非定型な学習過程, 人間環境学研究, 12(1), p.17-23,2014.