リストカットをはじめとする自傷行為は、若者の間で大きな問題になっています。
自傷行為をしない人にとっては理解しがたい感情で、驚くこともあるでしょう。
例えばリストカットをする人の中では「落ち着く」という人がいますよね。
どうして自分を傷つけることが落ち着くのか。
様々な視点から解説していきます。
自傷をしてしまう人を理解するためにも、また自分の自己分析のためにも参考にしてください。
この記事はリストカットをはじめとした自傷行為について知ってもらうことを目的としています。自傷行為をすすめるものではありません。また、今現在この問題に直面している方には適さないかもしれないので、各自の判断でブラウザバックをよろしくお願いします。
もくじ
リストカットとは
そもそもリストカットとはなんなんでしょう。リストカットとは手首を尖った刃物で傷つけるタイプの自傷行為のことです。使われる道具はカッターやカミソリが多いですが、他の刃物を使う人もいます。10代の女の子によく見られますが、もっと幼いことや、男性の事例もあります。
ちなみに、腕を傷つける行為はアームカット、足はレッグカット、顔はフェイスカットなどと言われます。体を切ってしまうのはボディカットです。
リストカットがエスカレートすると、目立たない部位や痛みを感じやすい部位を切ってしまう子もいます。
自傷は自分を傷つける行為全般をさすので、自傷=リストカットというわけではありません。あくまで、自傷行為の一つです。
例えば、危険な性行為や飲酒、過度なダイエットなども自傷に含まれます。
自傷は異常な心理状態や行為ではない
何かイライラする時、不安な時、私たちはものや人に当たることがありますよね。
これは、私たちの攻撃の対象が外に向かっているだけなのです。これが内側、つまり自分自身に向くのが自傷です。
そのため、自傷自体は異常な心理ではないのです。
これをしっかり覚えおきましょう。

リストカットをする理由は?
それでは、なぜ攻撃が自分に向かってしまう人がいるのでしょうか。大きく分けて、以下の理由が考えられます。
周りの人に助けを求められない
辛い悩みがあるとき、悔しい時、人間はストレスを感じます。そして、周りに助けを求めることができない時、そのストレスは自分に向かいます。どうして良いかわからないからこそ、全てが自分の手首という人から見えない場所に向かってしまうのです。
実際に、自傷はトイレの中や誰もいない自宅など、一人の場所で行われることが多いです。自傷は他の人に迷惑をかけるくらいなら、自分で完結させようとしている現れです。

こころの辛さや痛みからの逃避
現実から逃げたいという心理が自傷に繋がることがあります。自分の心が苦しい時、その苦しさは目に見えるものではありません。
そのため、身体的な痛みに置き換えて、心の苦しさから逃れようとしているのです。
痛みがあると落ち着く、血を見ると落ち着くというのは、このケースが考えられます。

自己治癒
生きるために自傷を行う人もいます。よく、自傷=自殺と考える人がいますが、これは違います。
確かに、自傷を行う人の自殺のリスクは、そうでない人と比べて100倍と言われています。(詳しくは自傷と自殺の違いを比較してみたを参考にしてください)
しかし、リストカットをしている人は、リストカットでは死なないことを認識しているのです。生きていることを実感するため、本当に死なないためにリストカットを行う人もいるのです。
病気(精神疾患)
全員に当てはまるわけではありませんが、精神疾患や発達障害の影響のこともあります。特に境界性パーソナリティ障害(ボーダーパーソナリティ障害)、またはその予備軍の場合に自傷行為は見られます。
また、統合失調症の初期症状としても見られます。
他にも、強迫性障害や摂食障害でも自傷(リストカット)を行うことがあります。

詳しくは自傷と自殺の違いを比較してみた の記事で、リスクのある精神疾患を紹介しています。ご覧ください。
解離状態
リストカットの理由として、解離(かいり)という現象の可能性もあります。解離とは、ストレスがものすごくかかると起こる現象です。自分の記憶や行動などが自分の行為として感じられないことをいいます。これにより、自傷をした痛みや記憶が和らいでいるのです。
解離は、解離症以外にも自閉症スペクトラム障害、気分障害(うつ病など)、てんかん患者などに現れます。また、被虐待者(虐待を受けた人)も解離を起こし、自傷していることがあります。
解離状態にある時、血を見ると我に返ることがあります。こういったのもリストカットと解離が関連している理由になっています。
脳内物質の影響 自傷が落ち着く理由は?
実は、自傷を繰り返している時に、脳内麻薬物質の濃度が上昇していることがわかっています。
エンケファリン、エンドルフィンの割合が上昇しているのです。ここから、痛みに対する鎮痛効果(痛みを和らげる効果)があるのではないかと考えられるようになりました。
そして、その鎮痛効果を耐えがたい心の痛みに対して使っているかもしれないのです。結果として、それなしで生きるのが難しく、常習的に繰り返してしまうことにつながります。

脳内麻薬とは:
モルヒネなどの麻薬とにた働きをする物質です。脳の中に自然にあります。エンドルフィンの他にドーパミンなども含まれます。エンドルフィンの鎮痛の行為は6.5倍もあるとも言われているのです。
リストカットの研究
倫理的にどうかはおいておいて、1983年にとある実験は行われました。リストカット前と後の血液成分を調べたのです。結果、自傷を繰り返していた人たちでモルヒネ(麻薬性の鎮痛薬:痛みを和らげている薬)のような物質が増えていることがわかりました。
リストカットへの対処方法
かと言って、自傷行為は放って良いものではありません。自傷行為なしで生きられるように、別の方法を探したり、支援に結び付けていく必要があります。
子どものリストカットに気がついた時、自傷へ家族は何ができるのか
まとめ
問題行動として捕らえられやすいリストカット。
でも鎮痛剤としての役割もあり、常習的にやりやすくなってしまう可能性があるのです。リストカットをしてしまう人は皮膚を切りながら心の痛みや苦しみを切っているのかもしれません。
自傷行為への正しい知識を持って、偏見が減っていくこと、支援や理解が増えていくことを祈っています。
参考文献
- COID, Raised plasma metenkephalin in patients who habitually mutilate themselves, Lancet 8349, 545-546, 1983.
山口 豊,窪田辰政,須部宗生,杉山三七男 下川 学,横沢民男,松本俊彦,自傷行為の実態について, 2013.
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リストカット・自傷行為のことがよくわかる本 (健康ライブラリーイラスト版) [ 林 直樹 ] 価格:1,540円 |